兄の思い出
私の兄は28歳で膵臓癌で亡くなった。
都会の大学を出て、銀行に勤め。その後、家業を継いだ兄は、私にとっても。両親にとってもスーパースターだった。頭が良くて、おしゃれで、ユーモアがあり、誰にも優しかった兄は、私が超えられない存在だった。
そんな兄が、夏のある日、大学病院に入院したと、医学部にいた私に、電話がかかってきた。とりあえず、急いで、病院に向かった。
ベッドの上の兄は、いつもと全く違う無精髭を伸ばして、片手を上げた。信じられなかった。大した病気などしてこなかった兄の顔を、まっすぐみれないほど、私は動揺していた。
何を話したかよく覚えていないが、、最後に、兄は、「夜が長いんよ」と力無く言ったことは鮮明に覚えている。
夏の初めから腰痛があり、整形外科に通っていたが、黄疸が出たので、内科に受診して、かなり進行した膵臓癌と診断されたのである。膵臓から腰椎に転移していたらしい、それから数日して、兄は死んだ。
私も衝撃を受けたが、母は、それ以上の衝撃を受け、葬儀の前後、廃人のようになり、寝ついていたが、それから数ヶ月経っても、兄の幻影が、うちから見える亀山公園の階段に見えると話していた。
四つ上の兄は、小さい時から妙に大人びていて、私は子供扱いされたような記憶しかありませんが、弟思いのいい兄だったと記憶しています。
あれから、46年経ちました。
写真の中の兄は、若々しい顔つきをしていますが、私はすっかり歳をとり、今年で70歳になります。あの時、感じた激しい悲しみ、行き場のない怒り、後悔、みんな霧の中に消えてしまいました。
喫茶店の椅子に座り、コーヒーが好きだった兄をふと思い出し、会いたいなと思う私がいます。会って、どんな話をするんでしょう。家業のこと、今の仕事のこと、母のこと、父のこと、姉のこと、家族のこと、私の子供たちのこと、孫のこと、兄と喧嘩をしたこと、そして、最後に話したあの晩のこと
取り返せない時間の記憶の中で、泣きたくなるほど、懐かしい瞬間たち、悲しくて切ないけれど、そんな瞬間をくれたあなたに感謝しています。影があるから、光が素晴らしく見えるんだよね
ありがとう、そして、またいつか会えるね、きっと
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